クラウドリフトとクラウドシフト|概要・それぞれの違いについて解説!

クラウドリフトとクラウドシフト|概要・それぞれの違いについて解説!

多くの業界で、クラウドシステムが利用されるようになりました。このときに重視したい考え方として、クラウドリフトとクラウドシフトが挙げられます。どちらもクラウドサービスを利用する際の概念ではありますが、どちらの方針で進めるかによって、準備すべき内容などが変化します。また、期間やコストなどにも違いがあるため、新しく理解しておかなければなりません。今回はクラウドサービスをより活用するためにも、クラウドリフトとクラウドシフトの概要から違い、どちらを選択すればよいかなどについて解説します。

クラウドリフトとクラウドシフトの概要

クラウドリフトとクラウドシフトの概要をまずは解説していきます。

クラウドリフトとは

クラウドリフトとは、現状、オンプレミスで構築されているシステムをそのままクラウド環境で実現する考え方です。オンプレミスと同じように、クラウド環境でシステムを構築すると考えればよいでしょう。オンプレミスのアーキテクチャをほぼそのままクラウドへと移行するため、一般的にクラウド化するといわれる際は、こちらが選択されます。

一般的にクラウドリフトの際は、AWSやAzureなどパブリッククラウド(IaaS)と呼ばれるものを利用します。これらはクラウド上のインフラサービスです。今までオンプレミスで契約していたものを、クラウドに置き換えるだけと理解して良いでしょう。新しくアプリケーションを開発したりシステムを構築したりすることはなく、純粋にインフラ環境だけを置き換えます。

ただ、単純な置き換えではクラウドを前提とした設計を実現できません。そのため「クラウド環境に構築する」というメリットを感じられないというデメリットに繋がりかねないのです。

クラウドシフトとは

クラウドシフトもクラウドリフトと同様に、オンプレミスのシステムをクラウドへと移行する考え方には違いありません。ただ、クラウドシフトの場合は、クラウドサービスだからこそのメリットを存分に活かすことを意識します。例えば、アプリケーションやシステムアーキテクチャの改修などを実施するのです。クラウドリフトは単純な移行で、クラウドシフトは複雑になると理解しても良いでしょう。

提供されているクラウドサービスの機能を存分に活かすため、オンプレミスでは実現できないアーキテクチャを設計できる可能性があります。例えば、クラウドサービスは「オートスケーリング」に対応しているものが多くあります。これにより、アクセス状況に応じてリソースを動的に変化させることが可能です。オンプレミスではこのような自由な設計が難しいため、クラウドに置き換えるからこその利点だといえるでしょう。

これは一例ですが、クラウドシフトの方がクラウドの良さを最大限発揮できます。ただ、クラウド環境を使いこなすためには、専門のエンジニアが必要です。また頻繁に変化するクラウドサービスの使用を追い続けて柔軟に対応することが求められます。そのため、クラウドシフトは難易度の高いものであり、まずはクラウドリフトから着手すると考えるべきです。

クラウドリフトとクラウドシフトの違い


続いては、クラウドリフトとクラウドシフトの違いについていくつかの観点から解説します。

クラウド化の対象

細かな部分ではありますが、クラウド化の対象に違いがあると考えられます。クラウドリフトは、インフラだけをクラウド化するイメージです。対して、クラウドシフトはアプリケーションも含めてクラウド化しなければなりません。この違いは、クラウド環境の設計をするにあたって重要となるため、微妙な部分ですが押さえておくようにしましょう。

例えばクラウドリフトは、単純にサーバーやネットワークだけをクラウド環境に置き換えるものです。アプリケーションには、変更を加えないことを上記で解説しました。それに対してクラウドシフトの場合は、アプリケーションの一部をクラウドサービスの機能に置き換えることがあります。部分的にアプリケーションの改修やアーキテクチャの見直しが必要となるのです。この点を認識していないと、クラウド化のプロジェクトにおいて失敗する原因となりかねません。

実施の目的

クラウドリフトの目的は、クラウド環境への迅速な移行を実現し、オンプレミスの利用を減らすことです。例えば、サーバーやネットワークのリソースを減少させ、コスト自体も削減することを目的としています。できるだけ早く、オンプレミス環境から解放されることが目的であると言い換えてもいいでしょう。

それに対して、クラウドシフトは、クラウド環境の特徴を最大限に活用することが目的です。例えば、システムの柔軟性やスケーラビリティを高めたり、可用性を向上させたりします。場合によってはコストが生じることはありますが、オンプレミスでは実現が難しいことをクラウドで実現することが大きな目的なのです。

実施によるメリット

クラウドリフトは、クラウド環境を活用する手法の中でも比較的簡単に採用できるものです。最低限のスキルで迅速に実施できるため、オンプレミスからの解放を求めている場合に適しています。また、既存のシステムをそのまま利用できる仕組みであるため、初期コストやリスクが低くなりやすいことも特徴です。

しかし、クラウドシフトの場合は、クラウドネイティブの技術を活用できることがメリットです。専門的なスキルを持つエンジニアなどが必要となりますが、中長期的に見ると運用コストを削減したり、パフォーマンスの向上が期待できたりします。また、上記でも触れたとおり、オンプレミスでは実現できない機能を実装することが可能です。最新のアーキテクチャの実現に貢献してくれることがメリットでもあります。

アーキテクチャ

クラウドリフトは「リフト&シフト」とも呼ばれ、アプリケーションをほぼそのままの形でクラウドインフラに移行できます。最小限の変更で移行できる方法であるため、アーキテクチャの見直しはほとんど必要ありません。場合によってはネットワークの変更などが必要になりますが、概ねそのままです。そのため、アプリケーションでの設定作業なども最小限に抑えられます。

しかし、クラウドシフトの場合は、アーキテクチャが根本的に変化するケースが大半です。アプリケーションのリファクタリングが必要となり、場合によっては再構築なども実施します。クラウドの良さを最大限発揮するためには、アーキテクチャを大きく変化させなければなりません。例えば、マイクロサービスやコンテナ化、サーバーレスを導入するなどが考えられます。最終的なアーキテクチャには大きな違いがあるのです。

リスク

クラウドリフトは、オンプレミスの環境をクラウドへ移行するだけの作業です。そのため、移行作業の中でもリスクは低いと考えられています。実際、アーキテクチャの変更などに起因するリスクは低いと評価してよいでしょう。ただ、クラウドの特性を十分に活かせないケースが多く、無駄なアーキテクチャが存在するという観点ではリスクがゼロではありません。

また、クラウドシフトにもリスクがあり、例えば移行プロセスの複雑さが懸念されます。多くのアプリケーションをクラウドシフトしようとすると、多角的な設計が必要です。もし、相互にかみ合わない部分があると障害が発生するなどのトラブルに繋がりかねません。ただ、リスクを乗り越えれば大きなメリットがあるため、ハイリスクハイリターンとも評価できます。

クラウドリフトとクラウドシフトの実施手順


続いては、それぞれの実施手順と具体的にどのような違いがあるかについても解説します。

クラウドリフトの実施手順

クラウドリフトは既存のシステムやアプリケーションをそのままクラウドに移行するアプローチです。一般的には以下のような実施手順が採用されます。

  1. 移行計画の策定
  2. クラウドサービスの選定
  3. データやアプリケーションのバックアップ
  4. ネットワークおよびセキュリティの設定
  5. アプリケーションおよびデータの移行
  6. テスト

最初に検討すべきは、移行の対象とどのクラウドサービスを利用するかです。主に複数の選択肢が挙がりますが、法人向けに提供されているベンダーのクラウドサービスを利用する選択肢もあるでしょう。状況に応じて選択しなければならないため、どれが良いとは一概に言い切れません。

移行するクラウドサービスが選ばれたならば、データやアプリケーションのバックアップや設定内容の確認が必要です。クラウド環境へ置き換えた場合に、どのような設定変更が必要になるかについても確認しておいた方が良いでしょう。

事前準備が完了した後は、アプリケーションとデータを移行します。専用のツールを利用することもあれば、クラウド環境に改めてインストールなどすることもあります。基本的には移行であるため、アプリケーションやデータをコピーして、設定を微調整するものだと考えておきましょう。

クラウドシフトの実施手順

クラウドシフトは既存のシステムやアプリケーションをクラウドに最適化して再設計・再構築するアプローチです。一般的には以下の実施手順が採用されます。

  1. アセスメントや計画
  2. クラウドネイティブアーキテクチャの設計
  3. プロトタイプの作成と検証
  4. アプリケーションのリファクタリング
  5. インフラストラクチャの設定
  6. データ移行と統合
  7. テスト

クラウドリフトとの違いは、クラウドネイティブのアーキテクチャを設計することです。例えば、マイクロサービスやコンテナを活用したアーキテクチャに見直ししなければなりません。また、データベースやストレージなど、クラウドサービスが提供する機能に最適化することも求められます。

アーキテクチャをクラウドに置き換える場合は、プロトタイプの作成が必要です。まずは簡易版を作成して、想定している機能を実装できるかどうか評価するようにしましょう。事前に課題やリスクを特定して解決策を策定しておくことが重要です。問題なく実装できることが明らかになったならば、アプリケーションのリファクタリングを進めていきましょう。またそれと同時に、インフラ関係の設定を見直して、クラウド環境でアプリケーションを動作させられるように準備を整えていきます。

アプリケーションとインフラの準備が完了したら、あとはデータ移行と全体の統合作業を進めるだけです。データは、ツールなどを利用して移行することもあれば、手動で入力しなければならないこともあります。ツールを利用する際は、事前に作成が必要となるため、これについての実装やテストも実施しておくと安心です。また、クラウドにしかない機能は、データを移行した後に統合し、全体を通して問題なく動作するかテストして最終確認を済ませます。

まとめ

クラウドリフトもクラウドシフトも、どちらもクラウド環境を活用する考え方には違いありません。これからの時代はクラウドの活用が増えていくと考えられるため、両方の概念を理解しておくことが重要です。

まず、クラウドリフトは、オンプレミスをクラウド環境に置き換えようとする考え方です。オンプレミスの運用にはいくつもの課題が生じるため、これを解決することを目的としています。それに対して、クラウドシフトは、クラウドの良さを活用しようとするものです。最大限効果を発揮するために、アーキテクチャの見直しなども実施しなければなりません。

基本的にはクラウドリフトを実施してから、クラウドシフトも採用していくかどうかを検討します。最初からクラウドシフトを進めようとすると、技術面でハードルの高さを感じてしまいがちです。不可能とは言い切れませんが、計画的に進めるようにしましょう。

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admin